読者の皆様から寄せられたご質問に対する「Yojiの回答」コーナーの、<第4回>です。一気に全部のご質問には答えられないので、日をおいて、届いたご質問から順番に答えさせていただきます。
あくまでも「Yoji個人」が感じたことを、そのまま回答させていただきますので、同じ経験をしたけど違う感じ方をした人もいらっしゃるかと思いますが、その点はご了承下さい。
<今日の質問>
「他国のハングリーさとは、どうなのでしょうか?」
<Yojiの回答>
これも国によって若干の違いがあるのですが、今回は、分かり易い例として、中南米などの貧しい国々の人達と、豊かで恵まれた日本人との「ハングリー精神」の違いを、書かせていただきたいと思います。
以前、こんなおもしろい話がありました。
これまで何度もこのブログで紹介してきたので、覚えていらっしゃる方も多いかと思いますが、僕が「最も尊敬するGK」の1人で、「元パナマ代表正GK」(ドイツW杯予選も出場)の、ドナルド・ゴンサレスに関する話です。
これは、中南米人と日本人の「ハングリー精神」の違いを顕著に表す、非常に興味深い話だと思います。
ドナルド・ゴンサレスは以前、「ホンジュラス最強クラブ」と言われる、「オリンピア」というチームでプレーしていました。
そして2000年には、北中米カリブ海地区のクラブ王者を決める大会「CONCACAF チャンピオンズカップ」にて、オリンピアの守護神として大活躍し、何と「準優勝」という偉業を成し遂げます(この大会でオリンピアは、今年、日本で行われる「クラブW杯」にも出場するメキシコの強豪「パチューカ」を4-1の大差で破るなど、メキシコのクラブを2チームも撃破しています)。
しかも、その年からは、「世界クラブ選手権」という、現在の「クラブW杯」の原型となる大会が始まっており、この年、北中米カリブ海地区で2位となったオリンピアは、その「世界クラブ選手権」への出場権も掴みました。
…ちなみに、時を同じくアジアでは、Jリーグのジュビロ磐田が、「アジアクラブ選手権」という、現在の「アジアチャンピオンズリーグ(ACL)」の原型となる大会で優勝し、オリンピア同様、「世界クラブ選手権」の出場権を掴んでいました。
ところが…。
ご存知の方も多いかと思いますが、2001年に行われる予定だった、この「世界クラブ選手権」が、いろいろなトラブルが発生したために、何と「中止」になってしまったのです。
(詳しい情報は→ こちら!)
この時、日本では、ジュビロ磐田の選手達の無念の言葉が報じられました。
「ジュビロ磐田のサッカーが、世界でどれだけ通用するのか試したかった…」
「日本代表とはまた違った、世界との闘いをしてみたかった…」
…などなど、本当に、「残念」「無念」といったジュビロ磐田の選手達の言葉を聞いて、当時、僕自身も非常に悲しい思いをしたものです。僕も、あの時「アジア最強」だったジュビロ磐田が、世界の強豪クラブを相手にどんな闘いをするのか?…大変、大きな興味を抱いていたのです。
あれから約7年後…。
僕はドナルド・ゴンサレスに、当時の心境…「世界クラブ選手権が中止になった時の心境」…を聞いてみました。
もし、あの大会が中止になっていなければ、ドナルド・ゴンサレスは「世界デビュー」を果たしていたのです。彼の輝かしいサッカーキャリアの中でも、特に大きな「名誉」「栄光」になっていたことは間違いない…。
僕は、ドナルド・ゴンサレスの口から、どのような回答が返ってくるのか、固唾を呑んで見守りました。
そして、ドナルド・ゴンサレスが口を開きました…。
「いや~、もし、あの時、世界クラブ選手権が中止になっていなかったら、俺達、めちゃくちゃ良いボーナスがもらえるはずだったんだよ!かなりのお金がね!そう考えると、本当にもったいなかったな~…」
以上。
あれえええ!?
上の、ジュビロ磐田の選手達の言葉と比べてみて下さい(笑)。その違いが、顕著になります。この話は、中南米人と日本人の「ハングリー精神」の違いを、分かり易く表していると思います(ちょっと極端な例ですが)。
要するに、中南米人にとっては、まず、何よりも「お金」が大事なのです。「名誉」?「栄光」?…それよりも何よりも、とにかく、まず「お金」!!(笑)
もちろん、全ての中南米人がそうだとは言いませんが、その傾向が強いと、僕は彼らと共に生活する中で感じました。
例えば、もしホンジュラスのサッカー選手に、「現在のサッカー選手としての収入の3倍の給料を払うから、サッカーを辞めて他の仕事をしないか?」という話を持ちかければ、おそらく、本当にサッカーを辞めてしまう選手も多いのではないかと思います。
実際、僕のホンジュラス時代のチームメイトの何人かも、レギュラーとして出場していて、チームから給料ももらっていたのに、「アメリカで働いた方が、お金になる」と言って、突然、サッカーを辞めてしまいました。
そうやって、「まず、お金ありき」になってしまうのも、彼らは、豊かで恵まれた日本人からは想像もつかないような、貧しい生活を送っているからこそ…だと思います。
このように、目標とするものが「お金」と、はっきり目に見える形で存在し、そして、それを得ることによって、自身に対する明らかなプラス面=「生活が豊かになる」…をシンプルにイメージできること…。これが、W杯という真剣勝負を闘う上で、大きな力を発揮させる要因の1つではないか?…と推測します。
例えば、2人で早食い競争をするとします。1人は、貧しくて、もう何日も食事をとっておらず、空腹で空腹で仕方がない人…。もう1人は、豊かで恵まれた環境で育って、特にお腹は空いてないけど、この早食い競争に勝てば、「女の子にモテる」と考えている人…。
両者とも同じ胃袋を持っているとしたら、一体、どちらがこの勝負に勝つでしょうか?
答えは、明らかです(もちろん、前者!)。
日本人サッカー選手の多くは、「名誉」「栄光」「憧れ」…のために、海外でプレーしたいと言います。
中南米人サッカー選手の多くは、「お金」…のために、海外でプレーします(Jリーグに来るブラジル人選手などは、正に、それです)。
おそらく、中南米人サッカー選手には、日本人サッカー選手が、日本でプレーするより給料が下がってまでも、海外に挑戦したい気持ちが、全くもって理解できないと思います。
僕は、日本人にも「ハングリー精神」はあると思っています。ただ、その「ハングリー精神」の中身が、根本的に中南米人とは異なるのではないでしょうか?「何に対して、ハングリーか?」が違う…。
多くの日本人の「ハングリー精神」は、「名誉」「栄光」「憧れ」「人気者になりたい」「有名になりたい」「TVに出たい」「世間から注目されたい」「異性にモテたい」…などに対する欲望…。ともすれば、実態の無い、漠然とした、抽象的なものです。まあ、無いなら無いで、日常生活をする上では、特に困りません。
…だから、たまに「モチベーションが上がらない」…ってことになると、「頑張れ!」「気合だ!」…と、「根性論」が語られます。
逆に、中南米人の「ハングリー精神」は、「お金」「高い生活レベル」…などに対する欲望…。ある意味、極めてシンプルかつ、明確です。彼らにとって、それは、無いと大変、困るものなのです。
…だから、たまに「モチベーションが上がらない」…ってことになると、「給料を増やすから」「ボーナスをやるから」…と、札束をチラつかせれば、一気にモチベーションが上がります(笑)。「根性論」は、一切、必要ありません。
僕は、中南米人の「ハングリー精神」が正しいとは思いませんし、逆に、日本人の「ハングリー精神」が間違っているとも思いません(また、自分のこの見解が絶対に正しいとも、思いません)。
生まれ育った環境が全く異なるので、こうした「ハングリー精神」の違いが出てくるのは当然です。
ただ、中南米の有名サッカー選手と多く知り合い、交流する中で、1つ感じたのは、彼らは「名誉」「栄光」を手にしているにも関わらず、全くもって普通…というか、一般人とも同じ目線で交流するし、全然、勘違いしているようにも見えないのです。本当に、「普通」。
これが日本だと、世間一般でよく言われるのは、スポーツ選手や芸能人が「名誉」「栄光」を手にすると、勘違いしてしまったり、態度が横柄になったりすることが、多々あるようです…。
この違いは何なのか?
僕が思うのは、やはり中南米人にとって『目的』は「お金」であって、「名誉」「栄光」はその『手段』にすぎない…。だから、『手段』にすぎない「名誉」「栄光」を手にしても、それに対して、日本人ほど、あまり関心や特別意識を持たないのではないか…?
逆に、日本人の多くは、『目的』自体が「名誉」「栄光」になってしまっているから、それを手に入れると、周りも騒ぐし、本人もついつい「俺は凄いんだ!」…という特別意識が芽生えてしまうのではないか…?これはあくまでも、僕の推測にすぎませんが…。(誰か、分かる人がいたら教えて下さい!)
何にしても、真剣勝負になった場合、こういう「ハングリー精神」を持った中南米人を相手にするのは、大変、厄介なことだけは、間違いないと思います…。日本がこれに勝つには、「ハングリー精神」で対抗しても駄目なので、それとは全く異なる「何か」で勝負する必要があると思います。
豊かで恵まれた日本だからこそ生み出せる、「何か」で…。
また何かご質問等ございましたら、お気軽にご連絡下さい。
貴重なご質問、誠にありがとうございました。
※2005年。ホンジュラス、マラトンにてプロを目指して戦っていた時の写真。正に「野性児」の目…。この時の僕のハングリー精神は中南米人にも勝るとも劣らないものでした。
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うーん、考えさせられます。
「お金」って端的ですよね。
日本人は「お金がすべてじゃない」「お金の話をするといやらしい」「清貧」みたいな風潮がありますもんね。
それがつまりは「豊な国」だからこそ、余裕があるからこそいえる、ということでしょうか。
サッカーに対する目の血走り方がちがうのは「勝つ」と「負ける」の雲泥の差が生み出すのでしょうね。
大リーグと日本プロ野球の雰囲気のちがいもそこにあるかもしれません。
もうちょっとそのことについてオイラ自身も考えてみます。
あごちさん。
コメントありがとうございました。
僕が今回、書いたことが決して正しいとは言い切れませんし、もちろん、全ての中南米人が「お金」に対して凄くハングリーとも言えません。これはあくまでも、僕が約2年間、ホンジュラスに住んで、そこで中南米人と同じ釜の飯を食いながら交流する中で感じたことです。
>日本人は「お金がすべてじゃない」「お金の話をするといやらしい」「清貧」みたいな風潮がありますもんね。
それがつまりは「豊な国」だからこそ、余裕があるからこそいえる、ということでしょうか。
この、あごちさんのお言葉は、僕も本当にその通りだと思います。日本も戦後、貧しい時代は、目の色を変えて働いたと思います。ただ、中南米人は、残念ながら日本人ほど「勤勉」さはありませんが…(笑)。
>サッカーに対する目の血走り方がちがうのは「勝つ」と「負ける」の雲泥の差が生み出すのでしょうね。
あごちさんの、おっしゃる通りです。中南米人は「勝つ」もしくは「活躍」すると、より給料の良いチームから確実にオファーがくる…。それが後に、雲泥の差を生んでいきます。だから、目的がはっきりしてるし、モチベーションも高いです。
>大リーグと日本野球の違いもそこにあるかもしれませんね。
僕は大リーグについては詳しく存じないのですが、野球の世界でも、「給料が下がってでも、大リーグに挑戦したい」と言って、日本を離れる選手がよくいますよね。ただ、「アメリカ人」の「お金」に対する貪欲さと、「中南米人」の「お金」に対する貪欲さは、また全く違うんですよ…。これに関しては書くと長くなるので(笑)、今回はここら辺で止めておきます。
あごちさんの見解はいつも楽しいので、ぜひ、拝見させていただきます!
コメントありがとうございました!