読者の皆様から寄せられたご質問に対する「Yojiの回答」コーナーの、<第2回>です。一気に全部のご質問には答えられないので、日をおいて、届いたご質問から順番に答えさせていただきます。
あくまでも「Yoji個人」が感じたことを、そのまま回答させていただきますので、同じ経験をしたけど違う感じ方をした人もいらっしゃるかと思いますが、その点はご了承下さい。
<今日の質問>
「日本のサッカー環境に足りないものは何ですか?あるいは、足り過ぎてゆがんでいるものとかありますか?」
<Yojiの回答>
「日本のサッカー環境に足りないもの」は……はっきり言って「無い」です。ありとあらゆるものが、日本のサッカー環境には、世界最高水準で揃っていると思います。前回記事の言葉を引用させてもらうと、「天国」です。
大学サッカー部時代…。こんな、おもしろい話がありました。
公式戦に向かう、チームバス内での出来事…。
僕達、試合メンバーは、バスの座席「2人分」を、「1人」でゆったり使って良いことになっていました。僕達はそれが、特に「恵まれている」ことだとは思いませんでした。「試合メンバーだから、これくらい当たり前」…と思っていたのです。
…そんな中、「98年フランス代表、W杯初優勝までの奇跡」…という、ドキュメンタリー番組が、バスの中でビデオ上映されました。
そのドキュメンタリー番組の中で、フランス代表がW杯の試合会場に向かうバスの中の映像が出てきたのです。それを見た時、僕達、大学サッカー部員は言葉を失いました。
何とフランス代表は、ジダンなどのスーパースターも含め、みんなが1つのバスの中にぎゅうぎゅう詰めになって座っていたのです。1人で2人分の座席を使う!?…とんでもないです。フランス代表は、2人分の座席を2人で使っていたのはもちろんのこと、補助席にも選手が座り、込み合う状態の中で、W杯の試合会場に向かっていたのです…。
このシーンを目の当たりにした僕達、大学サッカー部員は、周りの選手と顔を合わせ、思わず、この言葉を発しました。
「一体、俺達、何様なんじゃ!?」
「世界チャンピオン」であるフランス代表よりも良い待遇を、たかだか日本の大学サッカー部員に過ぎない僕達が受けている…。
この事実が、全てを象徴していると思います。
ご質問の中にあるように、このような日本サッカー界の「満ち足りた状況」が、時として「足り過ぎてゆがんでいるもの」を生み出すのかもしれません。
Jリーグでも活躍した、現ブラジル代表監督ドゥンガ氏の言葉があります。
「日本人選手は、すぐ言い訳をする。
暑いから負けた。フィールドが凸凹だったから負けた。韓国人選手は肉を多く食べているから日本人よりスタミナがある。韓国人選手は日本が相手だと実力以上のものを発揮するから、勝てない…などなど。
しかし、ちょっと考えてみてくれ。
『暑い』のは日本だけじゃない。対戦相手も同じ条件だ。『フィールドが凸凹』もそう。『韓国人選手は肉を多く食べているから…』も、私は世界の名門チームを渡り歩いてきたが、日本ほど食事面などを含めた選手の体調管理面のサポートが充実している国は、世界で2つと無かった。『韓国人選手は日本が相手だと実力以上のものを発揮する…』にしても、だったら日本も、実力以上のものを発揮すれば良いだけの話である。」
…これは僕の意見ではなく、ドゥンガ氏が感じた、日本サッカー界の「足り過ぎてゆがんでいるもの」を、的確に指摘した言葉です。僕は思わず「なるほどな…」と納得させられました。
以前、Jリーグのとある有名選手が、こんなことを言っていました。
「試合に向かう新幹線がチーム事情で、グリーン車移動から、指定席移動になってしまった。こんな苦しい状況下でも、選手は必死に前向きに闘っている…。」
…しかし、そもそもホンジュラスなどの貧しい中南米の選手から見れば、「新幹線」で移動できること自体、大変「恵まれている」「幸せ」な待遇なのです。
ましてや、日本では「飛行機」での移動も当たり前…。ホンジュラスでは、海外での試合以外は、どんなに名門チームでも、片道4時間くらいかけて、バスで試合会場に向かいます(前泊はしますが)。
また、Jリーグチームのこんな「苦労話」も耳にしたことがあります。
「Jリーグチームなのに、チーム専用の練習場が無い。だから毎日、違う練習場を転々としなければならない…。」
…けど、ホンジュラス人選手から見れば、それでも「平ら」なサッカーフィールドで練習できる分、「恵まれている」「幸せ」な状況なのです。
ホンジュラスでは、練習場を転々とするのはもちろんのこと、「牧場」なのか「サッカーフィールド」なのか分からないほど酷い場所で練習することも日常茶飯事でした。
また、いくら練習場を転々とすることになっても、日本の選手は大抵みんな「車」を持っているから移動に困りませんが、ホンジュラスでは「車」が無い選手がほとんどで、毎日、練習場に行くだけでも疲れました。
…と、このように、日本のサッカー環境がいかに「恵まれた」「幸せな」「満ち足りた」ものであるか、ホンジュラスと比べて説明してきましたが、ここから先の僕の考え方は、日本の多くのサッカー評論家の意見と少し異なります。
日本の多くのサッカー評論家は、このような日本の「恵まれたサッカー環境」を見て「だから、日本人選手にはハングリー精神が出てこない。恵まれ過ぎていることは、むしろ問題である。」…と指摘します。
確かに僕もそう思うのですが、それと同時に、この「恵まれたサッカー環境」…というのも考えようによっては、むしろ立派な日本の「武器」になると思うのです。
確かにホンジュラスなどの中南米の選手は、「恵まれないサッカー環境」で育っている分、逞しい精神力と技術を身に付けますが、僕はホンジュラスでプレーしていて、「もし、彼らがもう少しでも良いから恵まれた環境の中でプレーできれば、もっともっと強くなるのではないか?」…と感じることが多くあったのです。
あまりにも「恵まれないサッカー環境」は、時としてプレーするのに大きな支障をきたします。僕はそれらの問題が、彼らの「成長」を足踏みさせている要因の1つだ…と、ホンジュラスでプレーしていて強く感じました。
ヨーロッパのサッカー環境は中南米と違い、大変、恵まれています。充実しています。…けど、強いです。「恵まれているから、ハングリー精神が出てこない」…という問題も、ヨーロッパでは聞いたことがありません。
だから、日本は「世界第2位」というこの経済力をとことん生かして、「恵まれたサッカー環境」という大きな「武器」を存分に有効活用し、それでもっともっと強くなれば良いだけの話ではないか?…と思うのです。
…再び、ご質問の回答に戻りますが、「日本のサッカー環境に足りないもの」は、ありません。これは他国には無い、日本の大きな「武器」なのです。だから、その「武器」を最大限に活用し、日本は日本独自の強化をしていけば良いと思います。
確かに「足り過ぎてゆがんでいるもの」があるのも事実ですが、どの国にだって、短所の1つや2つはあります。
ただ、日本でプレーしている選手は「世界的にも大変、恵まれた環境の中でサッカーしている」…という事実に対して「当たり前」と感じるのではなく、こんなにも素晴らしい環境の中でサッカーできることに、もっと「喜び」「幸せ」「感謝」の気持ちを感じて、その恵まれた環境を思う存分「満喫」して欲しいと願います。本当に「ありがたい」ことなのですから…。
長くなりました。
ちなみに、あえて唯一「日本のサッカー環境に足りないもの」…を挙げるとすれば、「プロ以外の選手が、芝のフィールドでプレーできる環境が少ない」…ことです。特にGKは、土のフィールドでプレーすると、どうしても痛みを恐れてセービングフォームが崩れてしまい、成長の大きな妨げになります。
…ただし、ホンジュラスの凸凹のフィールドは、日本の土のフィールドより、遥かにタチが悪く、痛いです。また、ホカホカの「馬糞」が落ちているフィールドもあって、セービングするのに勇気を要します。
貴重なご質問、誠にありがとうございました。
次回のブログは、また先週までの「ストーリー」に戻ります。
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大変おもしろく読ませていただきました。
日本にいると他の国のことなどさっぱりわからず、何でも「当たり前」。
いやむしろ、「今のケータイにワンセグがついてないから買い換えよう」とか
さらなる要求、欲望に目が向き、それが満たされても次のもの、
水道からお湯が出ないなど、少しでも後退しようものなら不平不満・・・・。
日本が地球上でどれだけ素晴らしい国であるかということに、日本人は気がつきにくいのがよくわかりました。
ただし、それだけ日本人が過保護になりやすいということでしょうか。
恵まれていることに気がつき、感謝しなくてはいけないのは、サッカー選手ばかりではないと感じました。
ありがとうございました。
あごちさん。
コメントありがとうございました。
「ワンセグ」って何ですか!?最近の日本の流行が全く分かりません(笑)。
>さらなる要求、欲望に目が向き、それが満たされても次のもの、水道からお湯が出ないなど、少しでも後退しようものなら不平不満・・・・。
日本人の現状に対する「不平不満」の大半は、中南米などの貧しい国の人達にとっては、おそらく問題の内に入ってないと思います。要求、欲求を追及すると、キリがありません。今の日本は、行き着く所まで行き着いている印象もあります。
>日本が地球上でどれだけ素晴らしい国であるかということに、日本人は気がつきにくいのがよくわかりました。ただし、それだけ日本人が過保護になりやすいということでしょうか。恵まれていることに気がつき、感謝しなくてはいけないのは、サッカー選手ばかりではないと感じました。
確かに、気付きにくいということは、あると思います。これは国民にその責任は無いですね。やはり、小さな頃からそういう環境で育っていると、そうなってしまうのは仕方のないことです。僕だって、貧しい国へ出ていなければ、こんなこと気が付きませんでした。
そういった意味で、人生において貴重な経験が積めたことに、本当、感謝したいと思います。
一度、極限状態とも言える生活を経験すると、何が本当に「必要」なもので、何が実は「不必要」なものか、感覚的に分かるようになりました。そして、「必要」なものが何の苦労もなく当たり前に手に入る「日本」という国を母国に持てる「喜び」「幸せ」「誇り」「感謝」を感じるようになりました。
とにかく、1人でも多くの日本人が「日本は世界でも有数の恵まれた国」であるということに、「喜び」「幸せ」「誇り」「感謝」を感じて欲しいと思います。
僕もいろいろ勉強になりました。
ありがとうございました。